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シルヴァニアは、テレビジョンセットの製造販売業を営む会社である。同社は、初めは卸売業者に製品を販売し、卸売業者はこれを小売業者に再販売していたが、全国的販売シェアが2%足らずまで低下したことに対処し、その回復増加をはかるため、1962年、製品をフランチャイズ制で直接に小売業者に販売する方法を始めた。このフランチャイズ契約において、同社は、相手の小売業者に対し、指定された場所でのみ販売することを義務を付けた。この契約では小売業者は競争商品を取り扱う事を禁止されていないが、他面一手販売地域を設定もなく、シルヴァニアは、市場開発のため必要とあれば、一地域において小売業者の数を増やすことが出来るように規定されていた。この販売方法成功して、同社は、テレビジョンセットの全国シェアを約5%まで引き上げ、八番目の売上高を持つようになった。
1965年、シルヴァニアは、サンフランシスコのおける販売成績を不満として、ヤングブラザーズを新たにフランチャイジーに追加した。同店の設置場所は、従来のフランチャイジーであるコンチネンタル・テレビから約1マイル離れたところに指定された。コンチネンタルは、この新しい店の設置に抗議したが、シルヴァニアの受け入れるところならなかった。これに反発してコンチネンタルは、シルヴァニアによって承認を拒否されたにもかかわらず、サクラメントに支店を開設するとともにシルヴァニアに対する既存債務の支払を全面的に停止し、これに対しシルヴァニアは、同店とのフランチャイズ契約を廃棄した。こうして両者の関係は決定的に破綻し、コンチネンタルが、シルヴァニアを相手どって北カリフォルニア連邦地裁に対し、フランチャイズ契約におけるロケーション・クローズは、シャーマンン法一条に違反するという理由で損害賠償を求める訴えを起こしたのが、本件である。
裁判において、シルヴァニアは、店舗位置の制限は、合理の原則により不当に競争を抑圧する場合にのみ違法とされるべき事を主張したが、第一審は、店舗位置の制限は、それ自体シャーマン法に違法して取引を制限する契約、結合又は通謀を行っているものであるとして、実損額の三倍に相当する591.505ドルをコンチネンタルに支払うよう命じた。裁判所は、本件に合理の原則を適用することを拒否して、次のように述べている。
「シルヴァニアが、自己の製品の所有権と危険負担を失った後に、シルヴァニア販売業者に販売された製品を支配し又は管理する事を内容とする契約、結合又は共謀を多くの販売業者と行ったことの証拠は明白であり、かくてシルヴァニアから購入した商品を販売業者が再販売する販路すなわち店舗の位置を制限することは、当該位置の制限が合理的であるかどうかかかわらず、シャーマン法一条に違反するものである。
しかし、本件の控訴審に当った第九巡回控訴裁判所は、多数決をもって第一審の判決を覆す判決を下した。すなわち裁判所は、製造業者が自己の製品に関し販売業者の再販売を制限したことに対し当然違法の原則を適用した1967年のシュウイン事件の最高裁判例と比較対照しながら、本件の拘束の性格やフランチャイザーの市場地位はシュウイン事件の場合と異なり、競争に与える影響が微弱である事を理由として、反対に合理の原則により本件行為を適法と判断したのである。ちなみに判決は、次のように述べている。
「本件において、シルヴァニアは、シュウイン事件において違法とされた拘束のいずれをも課していない。シュウインの地域的制限は、販売業者に対しその販売を自己の地域以外の消費者への競争を行う事を禁じたものである。これに対し、シルヴァニアの販売業者は、いかなる地域の消費者にも販売することが出来、いかなる地域においても広告活動を行うことができ、ただフランチャイジーの店舗位置に関してのみ制限されるに過ぎない。シュウインの制限は、各卸売業者に対し、他の卸売業者からのあらゆる競争から絶対的に隔離されている事を保障した。これに対し、シルヴァニアは、競争関係のあるように一手販売権を与えるフランチャイズ契約を任意に締結し、特に北カリフォルニアでは、競合関係に立つ販売業者が半径25~30マイルというたがいに大量販売が可能な地域内に配置された。シュウインの地域制限は、顧客の制限と結びついたが、シルヴァニアの販売業者は、販売業者の店舗が許容された位置に止まっている限り誰にも販売することが出来た。
かくて裁判所は本件の店舗位置の制限は、シュウイン判決ブランド内競争を阻害しても明らかにブランド間競争を増進するものであるから、この拘束約款は、シュウイン判決の当然違法の原則によって形式的に違法とされるよりも、むしろ合理の原則によって適法と評価されることが妥当であると結論した。
この控訴審判決は、最高裁によって支持されたが、結論にいたる理論的過程のなかで、シュウイン判決に対する解釈で両判決は異なっていた。すなわち控訴裁は、本件のような影響軽微な場合のロケーション・クローズを違法の対象から除くべきことは、フランチャイズ制を否定しながったシュウイン判決の趣旨に暗黙に含まれており、同判決と矛盾しないと解したのに対し、最高裁は、シュウイン判決は、本件の場合をも含めて、再販売が自己望むままにその所有する商品を処分する自由を制限するいかなる条件をも禁止する趣旨のものであると分析した。このような理解に基づき、最高裁は、本件行為を適法の結論に導くためには、シュウイン判決を誤りを認めこれを全面的に修正するという理論をとらざるを得なかった。こうして所有権を失った商品野再販売に関する垂直的拘束を全て当然違法としたシュウイン判決の立場は、本件判決において根本的に改められるにいたった。多数意見を代表してパウエル(Powell)判事は、判決文において次のように述べている。この判決は、垂直的地域・顧客拘束に関する決定的判例としての意義を持つと思われるので、少し長く引用してみたい。
「シュウインもシルヴァニアも、フランチャイズ制の採用によって各小売業者間の競争を減少させる事を求めたものであって、これを削減させることを意図したものではない。この制限は、シュウイン及びシルヴァニアをしてフランチャイザーがフランチャイズ契約で指定された以外に場所でフランチャイズ品を販売しないようにこれを規制することによって、自己の製品の小売業者間の競争を抑える事を可能ならしめるものである。全く同じ目的のために、シュウインの制限は代理店である小売業者はシュウイン製品を他の小売業者販売する事を禁止という、シルヴァニア方式には明らかに見られなかった仲間取引の規制を含んでいた。シュウイン事件では、裁判所は、理由を詳述してこの制限が許されないことを明らかにした。その意図と競争に与える影響において、シュウイン事件における小売業者の顧客制限は、本件の店舗位置の制限と区別しがたい。いずれの場合も、制限は、小売業者が自己の購入した商品を自己望むように処分する自由を制限するものである。一方の制限は地裁を対象とし、他方の制限は顧客を対象とするという事実は、反トラスト法上のその働きを分析すれば、またシュウイン事件の判示の意味するところによれば、考慮する必要がない。判断は現実に適合しなければならない。反トラスト法は現実を直視しなければならない。」
「シルヴァニアは、シュウイン事件と本件とが区別しがたいとすれば、シュウイン事件が再検討されなければならないと主張する。この問題に対する法の明確化をはかるため再検討する必要を認める。シュウイン判決は、僅か4年前に裁判所が垂直的拘束に対して当然違法の原則の適用を拒否したホワイト・モーター事件の判決から急転して、しかも十分な説明もなく遊離したものである。シュウイン判決は、その公表以来、学界の刊行物や連邦裁判所において絶えざる論争と紛糾に対象となってきた。学者の意見の多くは、この判決に批判的であった。そして、同様な垂直的拘束を扱ってきた連邦裁判所の判決にも、当然違法の範囲を制限的に解釈する傾向がみられた。我々の見解では、過去十年間の経験は、営業的にかなりの重要性を持つこの問題の扱いに役立てられなければならない。」
「伝統的な概念の枠組みは、普通のことであり、取り立てて議論を要しない。第一条は、取引または商業を制限するあらゆる契約、結合または共謀を禁止している。今この法律用語の司法的解釈は、概念の有力な基準として合理の原則を打ち立てた。この原則の下で、事実認定は、ある拘束的行為が競争を不当に制限するものとして禁止されるべきかどうかを決定するにあたり、事件の全ての条件を考慮してきた。当然違法の原則は、明らかに反競争的である行為に対してのみ妥当する。」
「要するに、当面している問題はシュウイン判決の当然違法が、ホワイト・モーター事件において当然違法の原則を適用することを拒否したのは、当該垂直的拘束がこれらの基準を満足させるかどうかが不確かであったからである。」
「垂直的拘束の市場効果は、ブランド内競争減殺すると同時にブランド間競争を増進する可能性をもっているため複雑である。重要なことに、シュウイン判決は、問題となっている拘束が、そのブランド内競争に与える悪影響とブランド間競争に与える好ましい影響に可能性の視点からこれを分析しなかった。(略)中心的要素は、所有権の移転ということであった。所有権が移転された場合には、全ての拘束が当然違法であると解せられた。そして、所有権が移転されていない場合にのみ拘束が合理の原則の下に評価されると解せられた。今問題となっている店舗位置の制限はシュウイン事件と同様な分析をうけなければならないであろう。」
「垂直的拘束は、製造業者をして自己の製品の流通のある程度の効率化を可能ならしめることによってブランド間競争を促進することがある。これらの埋め合わせ的利益(redeeming virtues)は、合理の原則の下で垂直的拘束を是認する全ての判定に含意されている。経済学者は、製造業者が他の製造業者とより効果的に競争する為のこのような拘束を加えることが出来るいくつの方法を見分けてきた。(略)例えば、新しい製造業者や新しい市場に進入しようとする製造業者は、有能かつ積極的な販売者をして消費者にまだ知られていない商品の販売にしばしば必要とされる投資と活動を行うように誘導するために拘束を加えることが出来る。市場に地位を確立した製造業者は、小売業者をして販売促進活動を行わせ、自己の製品の効果的な販売に必要なサービスと修理業務を提供させるために拘束を加えることが是認される。サービスと修理は自動車や主要な家庭電器器具のような多くの製品にとって不可欠である。このようなサービスの提供の質にいかんは、製造業者の信用と製品の競争力に影響する。いわゆるただ乗り(free rider)的効果のような市場の不完全性の故に、これらのサービスは、各小売業者の利益は、誰もがサービスを提供しない場合より誰もがこれを提供した場合の方が大きいであろうという事実にもかかわらず、全くの競争状態の下では小売業者によって提供されなくなるかもしれないのである。」
「結論を言えば、シュウイン事件において販売取引と非販売取引とを区別したことは、一方に当然違法の原則を適用し他方に合理の原則を適用することを妥当とすることにはならない。シュウイン事件で述べられた当然違法の原則が非販売引取の領域にも拡張されるのか、それとも合理の原則に席を譲って放棄されるのかという疑問は残るのである。我々は、当然違法の原則を拡張するには十分な理論的根拠を見出し得ない。」
「垂直的拘束が結論的に不当とみなされ、したがってそれが引起した実際の阻害またはそれを用いた事業上の理由に関しての念入りな調査なしに違法とされるべきかどうかを決定するためには、ホワイト・モーター事件において繰り返された基準に帰る必要がある。このような拘束は色々な形を取るが、自由市場経済において広く用いられている。上述したように、かなりの数の有力な経済学者や法律学者がその経済的効果を認めている。これに反対する専門家は比較的少数である。確かに本件においても、垂直的拘束が競争に対して有害な影響を持ちまたは持つ危険があり、これを埋め合わせる利益がないことを、一般論としてもシルヴァニアの協定に関しても示す証拠はない。したがって、シュウイン事件の判決で述べられた当然違法の原則は改められなければならないと考える。(略)そうはいっても、特定タイプの垂直的拘束に当然違法の原則が適用される可能性が排除されたとは考えない。合理の原則の基準からの離脱は、シュウイン事件の形式的な線引きによるよりも、説明可能な経済的影響によらなければならないことを確信する。」
「要するに、シュウイン判決以前に垂直的拘束を律した合理の原則へ復帰することが妥当な決定であると結論する。特定の垂直的拘束から反競争的効果が招来されることが証明されるとき、当該行為がシャーマン法一条で問擬される大半の反競争的行為に伝統的に適用されてきた合理の原則によって適当に規制することが出来るのである。以上によって控訴裁判所の判決は支持される。」
なお、ホワイト・モーター事件は、多数意見の結論に賛成しながらも、補足意見として本件とシュウイン事件の性格的相違を次のとおり強調している。
「シュウイン事件と本件との間にはブランド内競争について相当な違いがあると同様にブランド間競争についても相当な違いがある。シュウインとことなりシルヴァニアは、当該商品群の生産市場において有力な事業者でないことは明らかである。それぞれの流通政策を採り始めた時点において、シュウインは全国市場において25%のシェアを持つ、国内における主要な自転車の生産者であったの対し、シルヴァニアは、国内の製造業者が60~70%のシェアを占めるアメリカの全国市場において僅かに1~2%のシェアを占め、テレビの、衰退とまではいかないまでも低迷している生産者であった。(略)さらにシュウインのブランド名は、消費者に高く評価され、地方裁判所の言葉を持ってすれば、自転車産業における『キャデラック』として価格にプレミアムがつくほどであった。(略)このプレミアムのためシュウインの販売業者はブランド間競争から保護されると同時に、安売業者に値引の余地を与えて、政府の見るところでは、このことを防止するためにシュウインは顧客の制限に乗り出しらのである。(略)かくて経済学者が市場勢力を計るために用いる基準(製品の評価の格差と市場占有率)から判断すれば、シュウインは、シルヴァニアのテレビ市場におけるよりもかなり隔たりのある強力な地位を自転車の市場において享有していた。裁判所は問題となった垂直的拘束に合理の原則を適用しなかった理由の一つには、シュウインの市場における地位があったのである。シュウインは、自転車産業参入しようとするものでもなく、これに止まろうとするものでもなく、没落しつつある会社でもなかった。反対に同社は、本件の行為を開始した当時は、全国的有力な自転車の生産者であった。(略)そうして控訴裁判所は、シルヴァニア事件とシュウイン事件との間には、もう一つの重要な相違点があることを発見した。それは、すなわちシルヴァニアは店舗位置の制限を始めたとき、テレビ市場から駆逐される危険に瀕した小規模な事業者であったということである。」
「私の見解では、他の会社によって支配されたある種の製品の市場のおいて不安定な地位のある弱小製造者によって実施された垂直的拘束にまでも当然違法を拡張することを避けるための原理的基礎を与えることによってシュウイン判決を覆すことを正当化するべく多数意見が依拠した理由としては、少なくとも二つあるように思われる。その一つは、多数意見が指摘するように、テレビ業界に見られるようにブランド間競争が存在する場合には、消費者が同種製品の異なるブランドを代替的に購入することを可能によって、特定のブランドの市場勢力の搾取をかなり抑制しえることである。その二つは、多数意見が経済論として力説しているものであり、すなわち拘束を加えている製造業者が新しい市場への進出をまたは小さな市場占拠率の拡張を求めている場合には、垂直的拘束がブランド間の競争を増進する利益の可能性が特に大きいという見方である。
「本件の判決に当って、裁判所は、製品市場で弱小な経済力しか持たない製造業者によって行われる店舗位置の制限約款は、競争に与える影響においてシュウインが行った拘束よりもはるかに制限的でなく、したがって、仮にそれがシュウインと同様に販売業者の自由を制限するものであるとしても、これに合理の原則を適用することが正当かされると考えた。」

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