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ホワイト・モーター事件は、垂直的地域・顧客拘束契約が、連邦最高裁の審理にのぼった最初のケースである。1958630日、アメリカ司法省は、クリーブランドに本社を置くホワイト・モーターを北オハイオ連邦地裁に起訴した。起訴の趣旨は、ホワイト・モーターが、同社の製造するトラックの販売に関し、販売業者(卸売業者及び小売業者)と締結した契約において、(1)各販売業者にそれぞれ一手販売権を持つ地域を割り当てると共に、当該地域外への販売を禁止していること、(2) ホワイト・モーターに連邦および州の政府機関に販売する権限を留保し、この方面への販売業者の販売を禁止していること、(3)販売業者の消費者への小売価格及び卸売業者の小売業者への卸売価格を指示していることがそれぞれ一条に違反するとし、その差止命令を求めたものであった。これに対して被告ホワイト・モーターは、次のような理由を掲げて本件行為の必要性と正当性を主張した。
(1)地域条項は同社にとって他の種類のトラックを作る業者と競争するために必要であること。
(2)同社が、全国に小売業者販売網を直営し需要者に直売することは、理論的には可能であるが、このような方法は、費用のかさむ広範囲な販売機構を必要とするので実行不可能であること。
(3)唯一の実行可能な方法は、販売業者を置く機構を持って大規模な会社との現在の競争に対抗していく方法であり、かかる機構を効果的ならしめるためには販売業者に一定の規制された地域内で活発な集中的努力を行わせる必要があること。
(4)もし販売業者に精力的な販売活動の責任を持たせようとすれば、同社がその競争者によって侵略されないよう自ら保護することは、公正かつ合理的であること。
(5)同社は一定の地域で最大限の販売を達成するためには、販売業者をしてお互いの間からよりも競争相手であるトラック製造業者から販売を獲得することに努力させる必要があること。
そして同社は、「明らかな事実は、もし一定の地域における一手販売権の付与を違法だとすれば、トラックの販売競争は滅殺されることになり、決してこれを増進させることにならないであろうことである。」と付け加えた。
第一審は(1961)は、本件契約の真の目的は競争制限にあることを理由としてこれを違法であると認め、差止命令を発した。即判決は、次のように結論している。
「本件に関する諸般の事情を総合して、当裁判所は、ホワイト・モーター社の販売契約において問題となっている条項の眞の目的と効果は、競争者及び潜在的競争者の間に販売地域を分割し割り当てることによって競争を排除し制限することにあると認める。すなわち、かかる条項を含む契約は、直接には州際通商に影響し、上述の官庁管轄の下にある法律問題としては、シャーマン法一条及び三条に違反して不当に米国内の数州及びコロンビア地区の間の取引と通商を制限する契約及び結合を形成するものであると認める。」
この判決に対してホワイト・モーターは跳躍上告し、事件は連邦最高裁に移された。なお、この上告に先だちホワイト・モーターは、再販売価格維持条項を削除し、上告審では、もっぱら残る非価格的拘束条件の違法性が争われる形となった。裁判においてホワイト・モーターは、販売業者に対する販売地域の制限は、同社が、活動的で責任感に富む販売業者を確保し、同社より強大なゼネラル・モーターズやフォード・モーターズやクライスラーなどの自動車製造業者に対し競争力を持ち得るために不可欠の制度であること、また、販売業者の政府機関への販売の禁止は、特に競争が激甚であるこの方面の大口需要者に対しトラックのみならず補修用部品や付属品についても合理的な割引を行って取引を確保するために直接販売方式が必要であるからであるからであることを主張した。
最高裁は、五対三の多数決により、原審の判決を破棄して事件を差し戻し、ホワイト・モーターが販売業者の地域と顧客の制限を必要とする現実的理由を調査するよう命じた。しかし、同社は、地裁の再審の途中において政府の主張を容れた同意判決に服し、これにより事件は終結した。
この最高裁判決において多数意見を代表するダグラス(Douglas)判事は、垂直的地域・顧客拘束契約に対する当然違法の原則の適用に疑問を示し、この種の契約を当然違法と決め付ける前に、これを一律に違法として扱うことが妥当であるかどうかについて経済や事業の実態を十分に知るべきである事を指摘した。すなわち彼は、次のように述べている。
「本件は、垂直的契約における地域制限を内容とする最初の事件である。そして我々は、提示された書面の記録だけで結論に至るには、そのような制限及び顧客に関する制限の現実の影響について、余りにも知らなさ過ぎる。(略)水平的地域制限は競争を窒息させること以外には目的を持たない全くの取引制限である。垂直的地域制限は、そのような目的又は効果をもつことがあるかも知れないし、ないかも知れない。我々は、これらの契約が出現する経済上及び事業上の要因について十分に知らない。おれらは、是認するには余り危険であるかも知れず、侵略的競争者に対する防衛として許されることがあるかも知れず、小さな会社が事業に参加し又は止まるための唯一の実際的方法であるかも知れず、(略)これらに対し合理の原則の適用の余地が有るかもしれない。これらの契約の競争に対する現実の効果についてもっと知る必要がある。」
更に、ブレナン(Brennan)判事は、補足意見として「一手販売的地域制限(exclusive territorial restriction)は、ある場合には活発なブランド間競争を促進するかもしれない。」と述べている。
この判決は、当然その後における下級審の判決に影響を及ぼし、裁判所は類似の垂直的拘束の事件に対し、合理の原則によって違法性を評価するようになった。

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