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公取委ガイドライン

公正取引委員会は、1991年の「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下、「ガイドライン」)の中の「流通業者に販売地域に関する制限」(第2部・第二・3)において、一般的な考え方を示している。そこでは厳格な地域制限を、「メーカーが流通業者に対して、一定の地域を割り当て、地域外の販売を制限すること」と定義した上で、「市場における有力なメーカーが流通業者に対して厳格な地域制限を行い、これによって当該商品の価格が維持されるおそれがある場合」には、拘束条件付取引(一般指定13項)に該当し違法となるとする。
メーカーが「有力」であるかどうかの判断については、「当該市場におけるシェアが10%以上、又はその順位が上位3位以内であることが一応の目安となる」とし、「ただし、この目安を越えたのみで、その事業者の行為が違法とされるものではなく、当該行為によって『当該商品の価格が維持されるおそれがある場合』に違法となる。市場におけるシェアが10%未満であり、かつ、その順位が上位4位以下である下位事業者や新規参入者が厳格な地域制限を行う場合には、通常、当該商品の価格が維持されるおそれはなく、違法とはならない」とする。
その上で、「当該商品の価格が維持されるおそれがある場合」に当たるかどうかは、①対象商品をめぐるブランド間競争の状況(市場集中度、商品特性、製品差別かの程度、流通経路、新規参入の難易性など)、②台商品のブランド内競争の状況(価格のバラツキ状況、当該商品を取り扱っている流通業者の業態など)、③制限の対象となる流通業者の数及び市場における地位、④当該制限が流通業者の事業活動に及ばす影響(制限の程度・態様など)、を総合的に考慮して判断し、例えば、市場が寡占的であったり、ブランドごとの製品差別化が進んでいて、ブランド間競争が十分に機能しにくい状況の下で、市場における有力なメーカーによって厳格な地域制限が行われると、当該ブランドの商品をめぐる価格競争が阻害され、当該商品の価格が維持されるおそれが生じることとなる、とする。
ガイドラインでの考慮事項は非常に広範であるが、同一ブランド商品の価格が維持されるおそれ(以下、「価格維持効果」)によって公正競争阻害性(違法性)の有無が判断される。ブランド間競争の状況は、あくまで、同一ブランド商品の価格が維持されるおそれが生じるかを判断する際の考慮事項に過ぎない。また、垂直的販売地域の制限が、流通業者の販売努力を促しブランド間競争を促進する可能性がある点は、ガイドラインでは重視されていない。
これとは対照的に、「流通業者の競争品の取り扱いに関する制限」(2部・第二・2)については、市場における有力なメーカーが競争品の取り扱い制限を行い、これによって新規参入者や既存の競争者にとって代替的な流通経路を容易に確保することができなくなるおそれがある場合には違法となるとされており、ブランド間競争のもつ競争促進効果が重視されている。
ガイドラインでは、ブランド内の価格維持効果を違法性判断基準としていることから、ブランド間の同調的、協調的な価格維持効果については考慮していない。したがって、例えば、当該市場におけるシェアが15%で順位が3位のメーカーが、自己のブランド商品について厳格な地域制限を実施し、当該商品について価格維持効果が認められる場合には、それだけでガイドライン上は違法となり得る。
しかし、流通業者は、割り当てられたテリトリーにおいて、自己のブランド商品については独占的供給者になるのであり、少なくともテリトリー内では価格維持のおそれは当然に生じる。他方で、価格維持効果について、「おそれ」という文言にかかわらず、複数のテリトリーに存在する流通業者の販売価格がほとんど同一であるといった高いレベルまで求めるならば、実際には再販売価格拘束(一般指定12項)が併せて実施されている場合にのみ違法という判断になりかねない。そうすると、厳格な地域制限をめぐる問題も、その独自な検証が不要となり、結局のところ再販売価格拘束の問題に収斂されてしまう可能性もある。

シルヴァニアは、テレビジョンセットの製造販売業を営む会社である。同社は、初めは卸売業者に製品を販売し、卸売業者はこれを小売業者に再販売していたが、全国的販売シェアが2%足らずまで低下したことに対処し、その回復増加をはかるため、1962年、製品をフランチャイズ制で直接に小売業者に販売する方法を始めた。このフランチャイズ契約において、同社は、相手の小売業者に対し、指定された場所でのみ販売することを義務を付けた。この契約では小売業者は競争商品を取り扱う事を禁止されていないが、他面一手販売地域を設定もなく、シルヴァニアは、市場開発のため必要とあれば、一地域において小売業者の数を増やすことが出来るように規定されていた。この販売方法成功して、同社は、テレビジョンセットの全国シェアを約5%まで引き上げ、八番目の売上高を持つようになった。
1965年、シルヴァニアは、サンフランシスコのおける販売成績を不満として、ヤングブラザーズを新たにフランチャイジーに追加した。同店の設置場所は、従来のフランチャイジーであるコンチネンタル・テレビから約1マイル離れたところに指定された。コンチネンタルは、この新しい店の設置に抗議したが、シルヴァニアの受け入れるところならなかった。これに反発してコンチネンタルは、シルヴァニアによって承認を拒否されたにもかかわらず、サクラメントに支店を開設するとともにシルヴァニアに対する既存債務の支払を全面的に停止し、これに対しシルヴァニアは、同店とのフランチャイズ契約を廃棄した。こうして両者の関係は決定的に破綻し、コンチネンタルが、シルヴァニアを相手どって北カリフォルニア連邦地裁に対し、フランチャイズ契約におけるロケーション・クローズは、シャーマンン法一条に違反するという理由で損害賠償を求める訴えを起こしたのが、本件である。
裁判において、シルヴァニアは、店舗位置の制限は、合理の原則により不当に競争を抑圧する場合にのみ違法とされるべき事を主張したが、第一審は、店舗位置の制限は、それ自体シャーマン法に違法して取引を制限する契約、結合又は通謀を行っているものであるとして、実損額の三倍に相当する591.505ドルをコンチネンタルに支払うよう命じた。裁判所は、本件に合理の原則を適用することを拒否して、次のように述べている。
「シルヴァニアが、自己の製品の所有権と危険負担を失った後に、シルヴァニア販売業者に販売された製品を支配し又は管理する事を内容とする契約、結合又は共謀を多くの販売業者と行ったことの証拠は明白であり、かくてシルヴァニアから購入した商品を販売業者が再販売する販路すなわち店舗の位置を制限することは、当該位置の制限が合理的であるかどうかかかわらず、シャーマン法一条に違反するものである。
しかし、本件の控訴審に当った第九巡回控訴裁判所は、多数決をもって第一審の判決を覆す判決を下した。すなわち裁判所は、製造業者が自己の製品に関し販売業者の再販売を制限したことに対し当然違法の原則を適用した1967年のシュウイン事件の最高裁判例と比較対照しながら、本件の拘束の性格やフランチャイザーの市場地位はシュウイン事件の場合と異なり、競争に与える影響が微弱である事を理由として、反対に合理の原則により本件行為を適法と判断したのである。ちなみに判決は、次のように述べている。
「本件において、シルヴァニアは、シュウイン事件において違法とされた拘束のいずれをも課していない。シュウインの地域的制限は、販売業者に対しその販売を自己の地域以外の消費者への競争を行う事を禁じたものである。これに対し、シルヴァニアの販売業者は、いかなる地域の消費者にも販売することが出来、いかなる地域においても広告活動を行うことができ、ただフランチャイジーの店舗位置に関してのみ制限されるに過ぎない。シュウインの制限は、各卸売業者に対し、他の卸売業者からのあらゆる競争から絶対的に隔離されている事を保障した。これに対し、シルヴァニアは、競争関係のあるように一手販売権を与えるフランチャイズ契約を任意に締結し、特に北カリフォルニアでは、競合関係に立つ販売業者が半径25~30マイルというたがいに大量販売が可能な地域内に配置された。シュウインの地域制限は、顧客の制限と結びついたが、シルヴァニアの販売業者は、販売業者の店舗が許容された位置に止まっている限り誰にも販売することが出来た。
かくて裁判所は本件の店舗位置の制限は、シュウイン判決ブランド内競争を阻害しても明らかにブランド間競争を増進するものであるから、この拘束約款は、シュウイン判決の当然違法の原則によって形式的に違法とされるよりも、むしろ合理の原則によって適法と評価されることが妥当であると結論した。
この控訴審判決は、最高裁によって支持されたが、結論にいたる理論的過程のなかで、シュウイン判決に対する解釈で両判決は異なっていた。すなわち控訴裁は、本件のような影響軽微な場合のロケーション・クローズを違法の対象から除くべきことは、フランチャイズ制を否定しながったシュウイン判決の趣旨に暗黙に含まれており、同判決と矛盾しないと解したのに対し、最高裁は、シュウイン判決は、本件の場合をも含めて、再販売が自己望むままにその所有する商品を処分する自由を制限するいかなる条件をも禁止する趣旨のものであると分析した。このような理解に基づき、最高裁は、本件行為を適法の結論に導くためには、シュウイン判決を誤りを認めこれを全面的に修正するという理論をとらざるを得なかった。こうして所有権を失った商品野再販売に関する垂直的拘束を全て当然違法としたシュウイン判決の立場は、本件判決において根本的に改められるにいたった。多数意見を代表してパウエル(Powell)判事は、判決文において次のように述べている。この判決は、垂直的地域・顧客拘束に関する決定的判例としての意義を持つと思われるので、少し長く引用してみたい。
「シュウインもシルヴァニアも、フランチャイズ制の採用によって各小売業者間の競争を減少させる事を求めたものであって、これを削減させることを意図したものではない。この制限は、シュウイン及びシルヴァニアをしてフランチャイザーがフランチャイズ契約で指定された以外に場所でフランチャイズ品を販売しないようにこれを規制することによって、自己の製品の小売業者間の競争を抑える事を可能ならしめるものである。全く同じ目的のために、シュウインの制限は代理店である小売業者はシュウイン製品を他の小売業者販売する事を禁止という、シルヴァニア方式には明らかに見られなかった仲間取引の規制を含んでいた。シュウイン事件では、裁判所は、理由を詳述してこの制限が許されないことを明らかにした。その意図と競争に与える影響において、シュウイン事件における小売業者の顧客制限は、本件の店舗位置の制限と区別しがたい。いずれの場合も、制限は、小売業者が自己の購入した商品を自己望むように処分する自由を制限するものである。一方の制限は地裁を対象とし、他方の制限は顧客を対象とするという事実は、反トラスト法上のその働きを分析すれば、またシュウイン事件の判示の意味するところによれば、考慮する必要がない。判断は現実に適合しなければならない。反トラスト法は現実を直視しなければならない。」
「シルヴァニアは、シュウイン事件と本件とが区別しがたいとすれば、シュウイン事件が再検討されなければならないと主張する。この問題に対する法の明確化をはかるため再検討する必要を認める。シュウイン判決は、僅か4年前に裁判所が垂直的拘束に対して当然違法の原則の適用を拒否したホワイト・モーター事件の判決から急転して、しかも十分な説明もなく遊離したものである。シュウイン判決は、その公表以来、学界の刊行物や連邦裁判所において絶えざる論争と紛糾に対象となってきた。学者の意見の多くは、この判決に批判的であった。そして、同様な垂直的拘束を扱ってきた連邦裁判所の判決にも、当然違法の範囲を制限的に解釈する傾向がみられた。我々の見解では、過去十年間の経験は、営業的にかなりの重要性を持つこの問題の扱いに役立てられなければならない。」
「伝統的な概念の枠組みは、普通のことであり、取り立てて議論を要しない。第一条は、取引または商業を制限するあらゆる契約、結合または共謀を禁止している。今この法律用語の司法的解釈は、概念の有力な基準として合理の原則を打ち立てた。この原則の下で、事実認定は、ある拘束的行為が競争を不当に制限するものとして禁止されるべきかどうかを決定するにあたり、事件の全ての条件を考慮してきた。当然違法の原則は、明らかに反競争的である行為に対してのみ妥当する。」
「要するに、当面している問題はシュウイン判決の当然違法が、ホワイト・モーター事件において当然違法の原則を適用することを拒否したのは、当該垂直的拘束がこれらの基準を満足させるかどうかが不確かであったからである。」
「垂直的拘束の市場効果は、ブランド内競争減殺すると同時にブランド間競争を増進する可能性をもっているため複雑である。重要なことに、シュウイン判決は、問題となっている拘束が、そのブランド内競争に与える悪影響とブランド間競争に与える好ましい影響に可能性の視点からこれを分析しなかった。(略)中心的要素は、所有権の移転ということであった。所有権が移転された場合には、全ての拘束が当然違法であると解せられた。そして、所有権が移転されていない場合にのみ拘束が合理の原則の下に評価されると解せられた。今問題となっている店舗位置の制限はシュウイン事件と同様な分析をうけなければならないであろう。」
「垂直的拘束は、製造業者をして自己の製品の流通のある程度の効率化を可能ならしめることによってブランド間競争を促進することがある。これらの埋め合わせ的利益(redeeming virtues)は、合理の原則の下で垂直的拘束を是認する全ての判定に含意されている。経済学者は、製造業者が他の製造業者とより効果的に競争する為のこのような拘束を加えることが出来るいくつの方法を見分けてきた。(略)例えば、新しい製造業者や新しい市場に進入しようとする製造業者は、有能かつ積極的な販売者をして消費者にまだ知られていない商品の販売にしばしば必要とされる投資と活動を行うように誘導するために拘束を加えることが出来る。市場に地位を確立した製造業者は、小売業者をして販売促進活動を行わせ、自己の製品の効果的な販売に必要なサービスと修理業務を提供させるために拘束を加えることが是認される。サービスと修理は自動車や主要な家庭電器器具のような多くの製品にとって不可欠である。このようなサービスの提供の質にいかんは、製造業者の信用と製品の競争力に影響する。いわゆるただ乗り(free rider)的効果のような市場の不完全性の故に、これらのサービスは、各小売業者の利益は、誰もがサービスを提供しない場合より誰もがこれを提供した場合の方が大きいであろうという事実にもかかわらず、全くの競争状態の下では小売業者によって提供されなくなるかもしれないのである。」
「結論を言えば、シュウイン事件において販売取引と非販売取引とを区別したことは、一方に当然違法の原則を適用し他方に合理の原則を適用することを妥当とすることにはならない。シュウイン事件で述べられた当然違法の原則が非販売引取の領域にも拡張されるのか、それとも合理の原則に席を譲って放棄されるのかという疑問は残るのである。我々は、当然違法の原則を拡張するには十分な理論的根拠を見出し得ない。」
「垂直的拘束が結論的に不当とみなされ、したがってそれが引起した実際の阻害またはそれを用いた事業上の理由に関しての念入りな調査なしに違法とされるべきかどうかを決定するためには、ホワイト・モーター事件において繰り返された基準に帰る必要がある。このような拘束は色々な形を取るが、自由市場経済において広く用いられている。上述したように、かなりの数の有力な経済学者や法律学者がその経済的効果を認めている。これに反対する専門家は比較的少数である。確かに本件においても、垂直的拘束が競争に対して有害な影響を持ちまたは持つ危険があり、これを埋め合わせる利益がないことを、一般論としてもシルヴァニアの協定に関しても示す証拠はない。したがって、シュウイン事件の判決で述べられた当然違法の原則は改められなければならないと考える。(略)そうはいっても、特定タイプの垂直的拘束に当然違法の原則が適用される可能性が排除されたとは考えない。合理の原則の基準からの離脱は、シュウイン事件の形式的な線引きによるよりも、説明可能な経済的影響によらなければならないことを確信する。」
「要するに、シュウイン判決以前に垂直的拘束を律した合理の原則へ復帰することが妥当な決定であると結論する。特定の垂直的拘束から反競争的効果が招来されることが証明されるとき、当該行為がシャーマン法一条で問擬される大半の反競争的行為に伝統的に適用されてきた合理の原則によって適当に規制することが出来るのである。以上によって控訴裁判所の判決は支持される。」
なお、ホワイト・モーター事件は、多数意見の結論に賛成しながらも、補足意見として本件とシュウイン事件の性格的相違を次のとおり強調している。
「シュウイン事件と本件との間にはブランド内競争について相当な違いがあると同様にブランド間競争についても相当な違いがある。シュウインとことなりシルヴァニアは、当該商品群の生産市場において有力な事業者でないことは明らかである。それぞれの流通政策を採り始めた時点において、シュウインは全国市場において25%のシェアを持つ、国内における主要な自転車の生産者であったの対し、シルヴァニアは、国内の製造業者が60~70%のシェアを占めるアメリカの全国市場において僅かに1~2%のシェアを占め、テレビの、衰退とまではいかないまでも低迷している生産者であった。(略)さらにシュウインのブランド名は、消費者に高く評価され、地方裁判所の言葉を持ってすれば、自転車産業における『キャデラック』として価格にプレミアムがつくほどであった。(略)このプレミアムのためシュウインの販売業者はブランド間競争から保護されると同時に、安売業者に値引の余地を与えて、政府の見るところでは、このことを防止するためにシュウインは顧客の制限に乗り出しらのである。(略)かくて経済学者が市場勢力を計るために用いる基準(製品の評価の格差と市場占有率)から判断すれば、シュウインは、シルヴァニアのテレビ市場におけるよりもかなり隔たりのある強力な地位を自転車の市場において享有していた。裁判所は問題となった垂直的拘束に合理の原則を適用しなかった理由の一つには、シュウインの市場における地位があったのである。シュウインは、自転車産業参入しようとするものでもなく、これに止まろうとするものでもなく、没落しつつある会社でもなかった。反対に同社は、本件の行為を開始した当時は、全国的有力な自転車の生産者であった。(略)そうして控訴裁判所は、シルヴァニア事件とシュウイン事件との間には、もう一つの重要な相違点があることを発見した。それは、すなわちシルヴァニアは店舗位置の制限を始めたとき、テレビ市場から駆逐される危険に瀕した小規模な事業者であったということである。」
「私の見解では、他の会社によって支配されたある種の製品の市場のおいて不安定な地位のある弱小製造者によって実施された垂直的拘束にまでも当然違法を拡張することを避けるための原理的基礎を与えることによってシュウイン判決を覆すことを正当化するべく多数意見が依拠した理由としては、少なくとも二つあるように思われる。その一つは、多数意見が指摘するように、テレビ業界に見られるようにブランド間競争が存在する場合には、消費者が同種製品の異なるブランドを代替的に購入することを可能によって、特定のブランドの市場勢力の搾取をかなり抑制しえることである。その二つは、多数意見が経済論として力説しているものであり、すなわち拘束を加えている製造業者が新しい市場への進出をまたは小さな市場占拠率の拡張を求めている場合には、垂直的拘束がブランド間の競争を増進する利益の可能性が特に大きいという見方である。
「本件の判決に当って、裁判所は、製品市場で弱小な経済力しか持たない製造業者によって行われる店舗位置の制限約款は、競争に与える影響においてシュウインが行った拘束よりもはるかに制限的でなく、したがって、仮にそれがシュウインと同様に販売業者の自由を制限するものであるとしても、これに合理の原則を適用することが正当かされると考えた。」

本件は、司法省反トラスト部により北イリノイ連邦地裁に差止命令を求めて起訴された事件である。違法被疑事実は、シカゴに本社を置く自転車製造業者であるシュウインが、その製品の販売に関し、(1)公正取引法(再販売価格維持に対する適用除外法)のない州において再販売価格維持を行い、(2)各卸売業者とそれぞれ一手販売権を持つ一定の地域を設定するとともに地域外への販売を禁止する契約を結び、かつ(3) 卸売業者と小売業者に同社がフランチャイズ契約を結んだ小売業者にのみ卸売するよう約束させており、これらの行為は、シャーマン法一条違反するというものであった。
これらの被疑事実に対する同地裁の判決は、(1)再販売価格維持に関しては、これを証明するに足る証拠がなく、(2) 卸売業者に販売地域の制限については、彼の団体であるシュウイン自転車卸売商協会(Schwinn Cycle Distributors Association)の同意を得て実施されている等の事実に徴し、実質的には卸売業者間の水平的協定であるとみられて、それ故に当然違法であるとしたが、(3) シュウインが、販売業者の卸売の相手方をフランチャイジーである小売業者に限定していることについては、これは顧客選択の自由を制限する当然違法の行為であるという政府の主張を斥け、合理の原則の立場から適法と判断した。すなわち裁判所は、シュウインが他の巨大な自転車メーカーであるSears RoebackMont Gomeryなどに比較して小規模であり、これらの競争者の直営小売店と対抗するためには、小売業者をして同社の販売方針に従った販売活動を行わせ、かつ顧客に対し所要のサービスを提供させるために、小売業者のフランチャイズ制を採用したもので、そのためには卸売業者に販売先をフランチャイジーに限定する必要があるという同社の主張に合理的理由があると認めたのである。
この判決に対し、政府は、再販売価格維持に関する部分を除き、連邦最高裁に跳躍上告を行った。上告審において、政府は、シュウインが卸売業者の販売地域を制限していること、及び卸売業者と小売業者に同社のフランチャイジーである小売業者にのみ卸売するよう要求していることは、いずれも当然違法とされるべきであると主張した。
これに対し、最高裁は、シュウインと卸売業者との取引方法のうちの販売(買取り)と非販売(販売委託)とを区別して違法性を評価した。すなわち判決は、販売によって商品の所有権が卸売業者に移転した場合には、この商品の再販売に関する地域や顧客の制限は、当然違法となるけれども、販売業務を委託し、商品の所有権が委託者であるシュウインに留保され、かつその商品販売に関する損失の危険をも同社が負担している場合には、これらの制限が違法であるかどうか合理の原則によって判断されるという解釈論に立って、本件行為に関しては、販売分に対するシュウインの卸売業者の地域と顧客の制限は当然違法であるとする一方、非販売分に対するこれらの制限は、次のような諸点にかんがみ合理の原則に照らして適法であるという結論に導いた。
(1)他に価格維持その他の反競争的行為がないこと。
(2)シュウインの卸売業者と小売業者は、他のブランドの自転車を自由に取り扱うことが出来ること。
(3)他の一般の卸売業者と小売業者も、シュウインの競争者の製品を入手し得ること。
(4)本件の販売方法は、競争がこれを必要とさせたものであり、かつ競争に対処するために必要な程度を超えておらず、その効果は、自転車市場における競争を守るものであって破壊するものでないこと。
(5) シュウインが小売業者のフランチャイズ制をしき、これらの者に限って小売を行わせていることは、それ自体としては不当な取引制限にならないこと。
裁判所は、製造業者が所有権を失った製品の処分に対する拘束には当然違法の原則を、所有権を実質的に保留している製品の処分に対する拘束には合理の原則を、それぞれ適用するという接近方法を立てることによって、この二つの違法基準にそれぞれ処分を与えようとしたのである。この点に関して、判決は、次のように述べている。
「シャーマン法の下では、製造業者が製品の所有権を喪失したのちにその商品の取引される地域又は人を制限し限定しようとはかることは、それだけで不当である。(略)かかる制限は、明らかに競争に対して破壊的であるので、その行為が存在しさえすれば、(違法となすに)十分である。」
「製造業者が製品に関する所有権と危険負担を保持しつづけ、かつ問題となっている販売業者の地位と機能が事実上製造業者に代理人又は販売従業員のそれと区別しがたい場合には、合理の原則が作用するのである。」
「製造業者が製品の所有権を留保しながら製品がそれを通じて公衆に配分されるべき機関として特定の卸売業者また小売業者を選ぶ場合を含めて、全ての垂直的地域制限とフランチャイズ制を禁止するように当然違法の原則が適用されるような非弾力的解釈にはしることは避けたいと考える。(略)しかし、製造業者は製品対する所有権を手放した後にかかる自由を許容することは、所有権譲渡す後の拘束を否定する以前の原則を破ることとなり、かつ法の許容限度を越えて販路の排他的設定と地域制限に扉を開くことになろう。」
「シュウインがフランチャイズ式の小売店制度を設け、同社の製品の小売を彼らに限定したことは、危険負担を含めて所有権の存在を識別するための全ての徴表を同社が保有する限り、また問題の販売業者らが機能的に代理店または販売員と同様で区別しがたいと認められる限り、不当な取引制限を構成すると結論することはできない。」
シュウイン判決以後、業界では、自己の所有権を失った商品野販売に関し、製造業者が販売業者に地域又は顧客を制限する義務を課すことは、全て当然違法であると解せられるようになった。しかし、この判決は、裁判所の間では、しばしば誤った判決と考えられ、その後の下級審判決において、垂直的地域・顧客制限に対し当然違法の原則の適用の例外を認めるものが、いくつ出現し、やがて後のシルベニア事件において最高裁も、シュウイン判決に解釈を前面的に修正して合理の原則の採用に転ずるという経過をたどるのである。

ホワイト・モーター事件は、垂直的地域・顧客拘束契約が、連邦最高裁の審理にのぼった最初のケースである。1958630日、アメリカ司法省は、クリーブランドに本社を置くホワイト・モーターを北オハイオ連邦地裁に起訴した。起訴の趣旨は、ホワイト・モーターが、同社の製造するトラックの販売に関し、販売業者(卸売業者及び小売業者)と締結した契約において、(1)各販売業者にそれぞれ一手販売権を持つ地域を割り当てると共に、当該地域外への販売を禁止していること、(2) ホワイト・モーターに連邦および州の政府機関に販売する権限を留保し、この方面への販売業者の販売を禁止していること、(3)販売業者の消費者への小売価格及び卸売業者の小売業者への卸売価格を指示していることがそれぞれ一条に違反するとし、その差止命令を求めたものであった。これに対して被告ホワイト・モーターは、次のような理由を掲げて本件行為の必要性と正当性を主張した。
(1)地域条項は同社にとって他の種類のトラックを作る業者と競争するために必要であること。
(2)同社が、全国に小売業者販売網を直営し需要者に直売することは、理論的には可能であるが、このような方法は、費用のかさむ広範囲な販売機構を必要とするので実行不可能であること。
(3)唯一の実行可能な方法は、販売業者を置く機構を持って大規模な会社との現在の競争に対抗していく方法であり、かかる機構を効果的ならしめるためには販売業者に一定の規制された地域内で活発な集中的努力を行わせる必要があること。
(4)もし販売業者に精力的な販売活動の責任を持たせようとすれば、同社がその競争者によって侵略されないよう自ら保護することは、公正かつ合理的であること。
(5)同社は一定の地域で最大限の販売を達成するためには、販売業者をしてお互いの間からよりも競争相手であるトラック製造業者から販売を獲得することに努力させる必要があること。
そして同社は、「明らかな事実は、もし一定の地域における一手販売権の付与を違法だとすれば、トラックの販売競争は滅殺されることになり、決してこれを増進させることにならないであろうことである。」と付け加えた。
第一審は(1961)は、本件契約の真の目的は競争制限にあることを理由としてこれを違法であると認め、差止命令を発した。即判決は、次のように結論している。
「本件に関する諸般の事情を総合して、当裁判所は、ホワイト・モーター社の販売契約において問題となっている条項の眞の目的と効果は、競争者及び潜在的競争者の間に販売地域を分割し割り当てることによって競争を排除し制限することにあると認める。すなわち、かかる条項を含む契約は、直接には州際通商に影響し、上述の官庁管轄の下にある法律問題としては、シャーマン法一条及び三条に違反して不当に米国内の数州及びコロンビア地区の間の取引と通商を制限する契約及び結合を形成するものであると認める。」
この判決に対してホワイト・モーターは跳躍上告し、事件は連邦最高裁に移された。なお、この上告に先だちホワイト・モーターは、再販売価格維持条項を削除し、上告審では、もっぱら残る非価格的拘束条件の違法性が争われる形となった。裁判においてホワイト・モーターは、販売業者に対する販売地域の制限は、同社が、活動的で責任感に富む販売業者を確保し、同社より強大なゼネラル・モーターズやフォード・モーターズやクライスラーなどの自動車製造業者に対し競争力を持ち得るために不可欠の制度であること、また、販売業者の政府機関への販売の禁止は、特に競争が激甚であるこの方面の大口需要者に対しトラックのみならず補修用部品や付属品についても合理的な割引を行って取引を確保するために直接販売方式が必要であるからであるからであることを主張した。
最高裁は、五対三の多数決により、原審の判決を破棄して事件を差し戻し、ホワイト・モーターが販売業者の地域と顧客の制限を必要とする現実的理由を調査するよう命じた。しかし、同社は、地裁の再審の途中において政府の主張を容れた同意判決に服し、これにより事件は終結した。
この最高裁判決において多数意見を代表するダグラス(Douglas)判事は、垂直的地域・顧客拘束契約に対する当然違法の原則の適用に疑問を示し、この種の契約を当然違法と決め付ける前に、これを一律に違法として扱うことが妥当であるかどうかについて経済や事業の実態を十分に知るべきである事を指摘した。すなわち彼は、次のように述べている。
「本件は、垂直的契約における地域制限を内容とする最初の事件である。そして我々は、提示された書面の記録だけで結論に至るには、そのような制限及び顧客に関する制限の現実の影響について、余りにも知らなさ過ぎる。(略)水平的地域制限は競争を窒息させること以外には目的を持たない全くの取引制限である。垂直的地域制限は、そのような目的又は効果をもつことがあるかも知れないし、ないかも知れない。我々は、これらの契約が出現する経済上及び事業上の要因について十分に知らない。おれらは、是認するには余り危険であるかも知れず、侵略的競争者に対する防衛として許されることがあるかも知れず、小さな会社が事業に参加し又は止まるための唯一の実際的方法であるかも知れず、(略)これらに対し合理の原則の適用の余地が有るかもしれない。これらの契約の競争に対する現実の効果についてもっと知る必要がある。」
更に、ブレナン(Brennan)判事は、補足意見として「一手販売的地域制限(exclusive territorial restriction)は、ある場合には活発なブランド間競争を促進するかもしれない。」と述べている。
この判決は、当然その後における下級審の判決に影響を及ぼし、裁判所は類似の垂直的拘束の事件に対し、合理の原則によって違法性を評価するようになった。

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